最高裁判所第一小法廷 平成4年(オ)98号 判決 1994年4月07日
上告人
久我知子
右訴訟代理人弁護士
小口恭道
被上告人
株式会社住建ハウジング
右代表者代表取締役
白河秀夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小口恭道の上告理由第一点の一、第二点について
土地及びその上にある建物がいずれも甲、乙両名の共有に属する場合において、土地の甲の持分の差押えがあり、その売却によって第三者が右持分を取得するに至ったとしても、民事執行法八一条の規定に基づく地上権が成立することはないと解するのが相当である。けだし、この場合に、甲のために同条の規定に基づく地上権が成立するとすれば、乙は、その意思に基づかず、甲のみの事情によって土地に対する持分に基づく使用収益権を害されることになるし、他方、右の地上権が成立することを認めなくても、直ちに建物の収去を余儀なくされるという関係にはないので、建物所有者が建物の収去を余儀なくされることによる社会経済上の損失を防止しようとする同条の趣旨に反することもないからである。
原審の適法に確定した事実関係によると、原判決別紙物件目録一記載の土地及びその上にある同目録二記載の建物はいずれも上告人及び神谷頼子の共有であったところ、右土地の上告人の持分について強制競売が行われ、被上告人が右持分を買い受けたというのであるから、右の強制競売による売却によって民事執行法八一条の規定に基づく地上権が成立するものではないというべきであり、同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第一点の二について
原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大白勝 裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 裁判官三好達 裁判官高橋久子)
上告代理人小口恭道の上告理由
原判決は、以下に述べるように、法令(民事執行法八一条ないし民法三八八条等)の解釈・適用を誤っているものであり、また、最高裁判所の判例にも違背するものであるから、破棄されるべきである。
第一点 法令(民事執行法八一条ないし民法三八八条等)の解釈・適用の誤りについて
はじめに
原判決は、本件においては、二度の競売により本件土地の権利関係が変動していることから、第一の競売と第二の競売とに分けて、法定地上権が成立したかどうかを検討し、結局、いずれの競売においても、法定地上権の成立を否定しているものであるが、原判決の右判断は法令(民事執行法八一条ないし民法三八八条等)の解釈・適用を誤っているものである。
一 第一の競売について
1 原判決は、第一の競売の場合について、まず、「本件のように、土地及びその上に存する建物がいずれも甲、乙の共有に属したところ、甲の土地の持分が強制競売により第三者の所有に帰した場合に、甲のために右土地について右建物所有を目的とする法定地上権が成立するか否かは、民事執行法八一条の規定の文言からは必ずしも明らかでない。これを決定するためには、法定地上権が強力な用益物権であって関係者の利害に大きな影響を及ぼすことに鑑みると、法定地上権制度の趣旨とともに、関係者の利益保護と法的安定性にも留意することが必要であり、具体的には、まず、(1) 本来単独では共有土地上に地上権を設定することのできない甲のみの事情によって法定地上権を発生させることが他の共有者乙の権利を侵害することにならないかどうか、また、(2) 建物の保護という社会経済上の要請を達するために、法定地上権を認めなければならない関係であるかどうか、さらに、(3) 法定地上権を認めることが競売の債権者及び競売による土地持分の取得者その他の第三者に不測の損害を与えないかどうかの各点を検討すべきである。」(4丁裏以下)と述べた上で、右三点について判断しているが、この判断中には、誤っているないし相当でないものがある。
2(一) 原判決は、右(1)の点について「一般には、右のような共有関係の場合に法定地上権の発生を認めることは、乙の土地持分権を侵害することになり、相当でない。乙は、競売前から土地上に甲を共有者とする建物が存立することを認めてきた者であるが、その土地用益関係を直ちに地上権にまで高めることは乙の利益を害するといわなければならない。」と判断するが、右判断は誤っているものである。すなわち、
この場合の乙の利益というのは、経済的利益に帰することになると思料するが、乙においては、法定地上権の成立を認めると、その有する土地の持分の価値が法定地上権の成立に伴う負担分だけ減ずることになっても、他方、その減ずる分に対応して、その有する建物の持分価値が増えることになるのであるから、全体的には、経済的利益に変化はなく、乙の利益を害することにはならないことになる。
(二) また、原判決は、右の判断に続いて、「もっとも、事案によっては、乙が右不利益を受忍し、法定地上権の設定を容認することが考えられないわけではなく、本件においても、他の土地共有者である神谷頼子は控訴人の実姉であって、当審で提出された同人の陳述書(乙第六号証)によると、控訴人のために法定地上権を認めてもよいとの考えをみせていることが認められる(しかし、神谷頼子の右の意向が第一の競売以前からの確定的なものであるかどうかは、疑わしい。)。このような場合、乙の立場のみからすれば、法定地上権の成立を認めても差し支えないことになるが、乙の意思が客観的公示を欠き浮動性を免れないものであることを考えると、後記のとおり対第三者の関係等からして、常に法定地上権を肯定することには疑問があるといわねばならない。」と判断するが、右の判断は、前半部分は一応相当であるが、後半部分は相当ではなく、疑問があるといわなければならない。すなわち、
土地、及び建物いずれも共有に属している場合、その共有者間には、特別の関係(例えば親族関係とか)があるのが普通であり、また、そのような関係がなくとも、少なくとも、建物の維持・存続は共通の利益(共有者全員が建物の存続を願っているはずである)であることはいうまでもない。なぜならば、甲のための法定地上権の成立を認めないとするといずれ、自らのための法定地上権も否定される危険性が生じ、ひいては建物の維持・存続ができない危険性が生ずることになるのであり、しかも、本件の如き場合は、特別な事例、例外的な事例ではなく、共有の土地・建物の場合には、必ず起こりうる事態であるからである。それ故、「乙の意思の客観的公示」についていうと、競落人等の第三者にとっては、建物についても「共有関係」にあることは、現地へ赴き建物の存在を確認し登記簿謄本をとればわかることであるから、これを客観的公示とみなすないし準ずるものと解することができ、第三者に不測の損害を与えることはないのである。
3 原判決は、右(2)の点について、「競売の結果甲は土地の持分を失うから、法定地上権の成立を認めないかぎり土地の利用権を失うが、乙は依然として土地の持分を有しているので、土地を自己の持分に基づいて従前どおり利用することができ、その結果建物を取り壊さなければならないことにはならない。そうすると、法定地上権を認めなくても、建物の取壊しによる社会経済上の損失は回避される。」と判断する。
右判断は、それ自体では誤りではないが、本件の如き場合、乙においては、土地の持分を取得した競落人からの共有物分割請求により土地の持分を失う危険性を内在しているのであるから、乙にとっても、法定地上権の成立を認めた方が、その立場は安定し、利益となることになる。
4 原判決は、右(3)の点について、「法定地上権の成否は、土地の単独所有の場合であっても予測しがたいことが少なくないが、土地が共有の場合は、一層事態が複雑となる。競売の債権者、競売による持分取得者さらには、競売後の承継人等の利害関係者にとっては法定地上権の成否はできるだけ客観的かつ容易に予測しうるものであることが望ましく、競売手続においても、物件明細書に競売後の法定地上権の存否を正確に表示できるようにしておくことが必要である(甲第四号証によると、本件の第一の競売においては、執行裁判所は法定地上権の成立する場合ではないとして、物件明細書にその旨を記載したことが認められる。)。そうすると、前記のように土地共有者乙が法定地上権の成立を容認しているとしても、それがあらかじめ客観的に明らかにされ競売手続に反映することができるようなものであった場合はともかく、少なくとも単なる内心の意向のみによって法定地上権の成否を左右することは、右の要請にそう所以ではなく、右債権者、売却による取得者等の第三者に不測の損害を与え、法的安定を損なうことになるというべきである。」と判断する。
右判断は、前半部分は一応は相当であるが、後半部分(「そうすると……」以下)は相当ではない。すなわち、
まず、前半部分であるが、本件の第一の競売において、甲第四号証には「売却により設定されたものとみなされる地上権の概要欄に「なし」とあることから、原判決の述べるように、執行裁判所は法定地上権の成立する場合でないと判断していたことにはなるが、他方、評価書においても、法定地上権のことについては全く触れていないことから等すると、評価人、ひいては執行裁判所においては、法定地上権の成否について検討したこともうかがえないのである。となると、評価人ないし執行裁判所においては、本件の場合、法定地上権の成否が問題となる事案であるとは全く考えなかった可能性が大であり、そうであるとすると、後述する最高裁判所の判例の存在等からしても、極めて問題がある(また執行官ないし評価人が共有者である訴外神谷頼子から事情聴取しないことも問題である)。
次に、後半部分であるが、前述したような、土地・建物が共有関係にある場合の共有者にとって利益の点からすると、「そのような共有関係」にあることは登記簿謄本で明らかであるから、これをもって「客観的に明らかにされた」と解することは可能であり、第三者に不測の損害を与えることはないはずである。
ところで、第一の競売においては、入札参加者は、被上告人しかいなかったのであるが、このことは、本件の如き共有物件の場合、通常、法定地上権が主張される可能性があることは予測されるのであるから、そのこともあって、入札参加者が被上告人のみであったと推測される。被上告人は、不動産業者であって、その後の経過等からしても、本件土地建物全部を地上げする一連の手段の一つとして、本件土地の持分を競落したものと推測され、少なくとも、被上告人にとっては、法定地上権のことは不測のことではない。
5 原判決は、右の如き(1)ないし(3)の各点についての判断を基にして、「これらの点を考慮すると、前記のような土地及び建物の共有関係の場合に、他の土地共有者乙の意思を無視して法定地上権の成立を認めることはできないし、また、乙が法定地上権の成立を容認しているからといって、常に法定地上権の成立を肯定することにも疑問があるといわなければならない。」と判示する。
しかしながら、前述したことを総合すると、本件の如き土地及び建物の共有関係の場合にあっても、土地及び建物の単独所有の場合と区別すべき相当な理由ないし根拠は見い出すことができなく、少なくとも、原則として法定地上権の成立を認めるのが相当であり、また、原則として法定地上権を認めるのが相当でないとしても、他の共有者が法定地上権の成立を容認している場合には、法定地上権の成立を認めるのが相当である。
従って、原判決の右判示は、民事執行法第八一条の解釈を誤っているものである。
なお、原判決は、一審判決とは異なり、一切法定地上権の成立を認めないという解釈を採用してはいないが、にもかかわらず、上告人が原告の平成三年五月二三日付準備書面(一2参照、同書面で「注釈民事執行法4 不動産執行(下一一八〇頁以下」とあるのは、「(下)一八〇頁以下」の誤りであり、また、「民事訴訟法(3)」とあるのは、「注釈民事執行法」の誤りである)で引用した諸見解と比べると、法定地上権の成立する範囲がさらに限定されており、その点からも、原判決の右解釈は誤っているといわざるをえない。
6 原判決は、右判示を前提として、本件の場合について次の如く判示して、結局法定地上権の成立を否定する(7丁表以下)。
「そこで、本件についてみるに、前記のとおり、乙に当たる神谷頼子は現在では法定地上権の成立を容認する意向を示しているが、第一の競売の当時において右意向が客観的に表明されていた形跡は全くなく、神谷頼子と控訴人とが姉妹であることから右の意向が当然推定されるということも困難であり、さらに、物件明細書にも法定地上権の発生は記載されず、このことを前提にして控訴人の土地共有持分の評価及び最低売却価額の決定が行われている。そして、競売により右土地持分を取得した被控訴人が神谷頼子の前記の意向を知りつつ、法定地上権の成立を予測して売却を受けたものであると認めるに足りる資料はない。また、本件においては、第一の競売による法定地上権を認めなければ、本件建物の保護を全うしえない関係であったともいえないのである。
以上のような事実関係の下においては、法定地上権を肯定することは相当でなく、第一の競売がされた時点では法定地上権は成立しないものと解すべきである。」
しかしながら、右判示は、原判決の民事執行法八一条の前述の如き解釈を前提としたとしても、その適用を誤っているものであり、相当でない。すなわち
まず、乙にあたる神谷頼子(以下「頼子」という)の成立を容認する意向の客観的表明の点であるが、上告人と頼子とが共同で本件土地を購入し、共同で本件建物を建てたことが登記簿上あらわれているのであるから、これにより両名の間の特別な関係が推認されるのであって、これをもって客観的に表明されたものということができる。
次に、頼子と上告人とが姉妹であることと右の意向の推定との関係であるが、「当然」とまではいえないにしても、姉妹の関係にあれば、妹の不利益のことをすることは通常ありえず、しかも法定地上権の成立は建物の維持・存続にとってプラスに働き、共通の利益となるのであるから、原則として右意向が推定されるというべきである。
被上告人においては、前述したように、本件土地・本件建物の全部を地上げする一連の手段の一つとして、本件土地の上告人の持分を競落しているのであるから、このような被上告人を頼子の利益を害してまでも保護する必要性は全くない。
ところで、本件の場合、法定地上権の成否を検討するうえで、最も重要な点は、乙にあたる頼子において、法定地上権の成立を容認しているかいなか、及び頼子の利益が害されるかいなか(前述の(1)の点に関連することであり、否定説の最大の根拠が乙の利益を害することにある)であるが、頼子がこれを容認していることは明らかであり、また前述のように法定地上権の成立は、頼子にとっても利益であることは明らかであって不利益であるないし損害を生じるということはないのである。
7 以上述べてきたとおり、本件の場合、第一の競売がされた時点で法定地上権が成立したものと解すべきであり、原判決は、民事執行法八一条の解釈・適用を誤っているものである。
二 第二の競売について
1 原判決は、第二の競売の場合について、まず次のように判示する(8丁表)。「第二の競売は、前記のとおり、本件土地が神谷頼子と被控訴人の共有、本件建物が神谷頼子と控訴人の共有という権利関係の下で、本件土地の共有物分割方法として民法二五八条二項の規定によって行われたものである。この規定による競売については、民事執行法一九五条、一八八条の規定により同法八一条の法定地上権に関する規定の適用はなく、また、本件土地及び建物が抵当権の目的となっていないので、民法三八八条の適用を論じる余地もない。
したがって、第二の競売によっても控訴人のための法定地上権は成立しない。」
しかしながら、右判示は、民事執行法一九五条、同法八一条、ないし民法三八八条の解釈を誤っているものである。すなわち、
(一) 民事執行法一九五条は、「留置権による競売及び民法・商法その他の法律による換価のための競売については、担保権の実行としての競売による」と定めるのであるが、「共有物分割方法としての民法二五八条二項の規定による競売」が「民法の規定による換価のための競売」に該当することは明らかであるから、第二の競売の場合は、担保権の実行としての競売の例によることになる。
従って、第二の競売の場合には、担保権の実行としての競売の場合に適用される民法三八八条が適用されることになると思料する。
原判決は、「本件土地及び建物が抵当権の目的となっていない」ことを理由に民法三八八条の適用を否定するが、民事執行法一九五条に定める競売は、もともと抵当権の目的となっていない土地・建物の競売について定めているものであるから、右のことはそもそも理由になりえないはずである。
(二) 仮に、右解釈が相当でないとするならば、共有物分割方法としての競売の場合には、民事執行法八一条が準用されるべきである。
なぜならば、右競売においては、少なくとも、一方の当事者の意思を無視して、裁判所の決定により強制的に対象不動産が競売される点において、強制競売と性質を同じくするものであるからである。
(三) それに、競売の結果、土地・建物の所有者を異にするに至った点においては、共有物分割方法としての競売と任意競売、及び強制競売とは同一であるし、また、「競売の結果建物所有者の土地利用権が失われるとしたときの建物取壊しによる社会経済上の損失の防止」という法定地上権制度の趣旨・目的は、共有物分割方法としての競売の場合にもあてはまるはずであるから、右競売においても、民事執行法八一条もしくは、民法三八八条のどちらかの法定地上権の成立を認めるべきであり、いずれの成立も認めない原判決の右判示は、これら法令の解釈を誤っているといわざるをえない。
2 原判決は、右判示に続いて、次のように判示する。
「もっとも、第一の競売前の権利関係と、第二の競売後の権利関係とを対比すると、神谷頼子と控訴人が本件土地と本件建物をそれぞれ共有していたところ、二度にわたる競売の結果、本件土地は被控訴人の単独所有となり、土地と建物の所有者を異にするに至ったことになるが、二度の競売を合わせてあたかも一個の強制競売が行われたもののごとくにみるべき根拠はなく、第一の競売後の段階で発生しなかつた法定地上権が第二の競売の結果発生すると解することはできない。
しかしながら、右判示も相当ではない。すわち、
本件の場合、被上告人においては、第一の競売、及び第二の競売いずれも、本件土地・本件建物の全部を地上げするという一連の手段の一つであるから、二度の競売をあわせて一個の強制競売が行われたと解するのが相当であり、第二の競売によって、本件建物全体につき、法定地上権が成立するに至ったと解することができる。
なお、岩本信行元判事は、土地の甲・乙両者の持分がいずれも、同一の第三者の取得となった場合について、「丁度同一人が土地及び建物を単独所有しているときと同視してよいと解され、甲乙が地上権を取得することに異論はないものと思われる。」と述べている(「共有不動産をめぐる法定地上権の成否」判例タイムズ三八六号三七頁の「(五)例ICハ及びニの場合」参照)。
第二点 最高裁判所の判例違背について
原判決は後述する二つの最高裁判所の判例の趣旨に違背するものである。すなわち、
一 土地及び建物が同一人らの共有に属しているとき、その土地又は建物の持分権の一部が強制競売された場合の法定地上権の成否の点については、まだ、最高裁判所の判例は出されていないと思われる。しかし、任意競売の場合(民法第三八八条の法定地上権の成否が問題となった場合)についての最高裁判所の判例は存在する。
この最高裁判例においては、法定地上権は原則として否定しているものと解されているが、例外として法定地上権の成立を認める場合のあることまでも否定していないことは明らかである。
例えば、最高裁第三小法廷昭和四四年一一月四日判決(民集二三巻一一号一九六八頁)は、「土地が共有である場合に、共有者の一人の所有にかかる地上建物が競落されるに至っても、共有土地の上に法定地上権の発生を認めることが原則として許されないのは所論のとおりである。」としながら、「右は他の共有者の意思に基づかないで当該共有者の土地に対する持分に基づく使用収益権を害することを予め容認していたような場合においては、右の原則は妥当でないものと解すべきである。」と判示する。
また、最高裁第三小法廷昭和四六年一二月二一日の判決(民集二五巻九号一六一〇頁)は、「建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人が右土地に抵当権を設定し、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法第三八八条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地及び建物を単独に所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。」と判示する。
要するに、右二つの判例においては、他の共有者において予め法定地上権の成立を容認しているような場合には、法定地上権の成立を認めているのであって、この場合、この容認の意向の客観的表明の点は何ら要件としていないのである。
二1 右法定地上権の成立を認めた最高裁の二つの判例の事例は、一つ(昭和四四年)は、甲乙共有の土地に甲単独所有の建物が存在した場合であり、他の一つ(昭和四六年)は、甲単独所有の土地に甲乙共有の建物が存在した場合である。
本件の場合、右二つの事例とは若干異なり、土地・建物いずれも同一の二人の共有の事例であるが、他の共有者であった頼子においては、本件建物にも持分を有しているので、法定地上権の成立を認めても、前述のように何ら経済的に不利益を被ることはない。
2 また、本件の場合、上告人と頼子とは実の姉妹の関係にあり、また、原判決で認定しているような経緯により、まず本件土地の持分に対し、競売申立がなされたのであるから、頼子は、あらかじめかかる事態の生ずることを予定しており、本件土地に対して法定地上権が成立することを承認していたものである(この点は証拠上明らかであり、原判決も認めるところである)。
3 また、本件の場合、前述のように頼子の利益を害してまでも、被上告人の予期していた「損害」を回復させるべき事情は全く存しない。
三 以上からするならば、本件の場合は、右二つの最高裁判例の事例以上に法定地上権の成立を認めて然るべき事例であることは明らかであり、法定地上権の成立を認めなかった原判決は、右二つの最高裁判例の趣旨に違背することは明らかである。